電話をしながら頭を下げる事は仕事でよくある事だった。
 しかし本当の意味で誠意を込めて、心からそうしたのはこれが生まれて初めてだったろう。
「ほんっっっと~~~にすまない」
 再三に渡る俺の謝罪に返答はまだ来ない。通話口の向こうから伝わる緊張感は張り詰めるばかりだ。
 いつもはこちらが疲れる程にお喋りな宮子が、こんなにも長い間沈黙を守っている。
二十歳からの交際6年。結婚生活2年。累積8年にもなる付き合いの中でも、こんな緊張感は経験した事がない。
嫌でも彼女の憤りを感じさせる。
 彼女の落胆も当然だ。折角予約を取ったクリスマスイブのディナーがその数時間前で塵と消えたのだから。
『卸した商品が得意先で不具合出たんだからしょうがないだろ』
 突然残業を強いられた理由を、再び繰り返すのは簡単だった。しかし俺はそれをしたくなかった。
 今朝、俺を送り出す時の宮子の笑顔があまりに楽しそうだったから。
『フレンチでディナーなんて久しぶりだね』
 普段はしない、おどけるようにされたいってらっしゃいのキスも感触が残っている。
 会社の休憩室は幸運にも無人だった。俺はそこでひたすら頭を下げて嫁の言葉を待つ。
「……はぁ。まぁ、仕方ないか」
 宮子は深いため息の後、冗談っぽく俺を責めるように続けた。
「その代わり、大晦日は一緒に初詣行く事。わかった? あんたいつも眠いし人混みが嫌だからって行ってくれないし」
 宮子は朗らかで姦しい女性ではあるが、同時に懐の深い大人でもあった。仕事と自分、どっちが大切なのだとヘソを曲げるような子供ではない。
 俺はその懐の深さに感謝しながらようやく顔を上げた。
「ああ、埋め合わせは何でもする。絶対だ」
「ふーん。じゃあ温泉旅行なんかも期待しちゃおっかなー」
「温泉でもディズニーでも何でも言ってくれ」
 俺の即答に宮子が笑う。
「はいはい。安月給なんだから無理しないの」
 返す言葉も無くて会話が途切れる。
 すると宮子は少し照れ臭そうに言った。
「……ま、今回は残念だったけどさ、その安月給でディナーを用意してくれたのは嬉しかったよ。ありがとね」
「……本当にすまない」
「もう謝んなくて良いってば。あんたが悪いわけじゃないんだし。ほら、折角のクリスマスイブなんだし辛気臭いのは勿体ないってば」
 良い嫁を貰ったとつくづく感謝する。



 電話を切るとあたしはもう一度ため息をついた。
 自分でも驚く程にガッカリしている。
 どうやら思っていた以上に旦那とのディナーを楽しみにしていたらしい。
 初めて彼氏が出来た小娘でもあるまいし、イブの食事くらいで何を凹んでいるのだと自嘲してしまう。
 もう28歳だ。そんな事で浮かれるような歳でもない。
 それでも胸の奥から沸き起こる寂しさは無視出来なかった。
 そういえば最近旦那とデート出来ていなかったなぁ、と思い返す。
 一緒に居るのが当たり前すぎて、旦那の事が好きだという気持ちも当たり前になっていたのだろう。
 帰ったら思いっきり甘えてやると、パート先であるファミレスの休憩室で鼻息を荒くする。
 そんなあたしに不意に声が掛かった。
「宮子さんは今日の忘年会どうします?」
 同僚の瀬戸君だった。まだ二十歳そこそこの学生で、見た目も言動も如何にもな軽薄な若者だけど仕事は案外真面目で有能だったりする。人は見た目で判断してはいけない。
 あたしはどうも年下からも話し掛けやすい気質なのか、名前にさんづけで呼ばれる事が多い。旦那からは誰彼構わずよく喋るから気さくな人間だと思われているんだろうと笑われる。
 年下に慕われようが嬉しくも何ともないが、別に嫌でもないので名前にさんづけで甘んじている・宮子姐さんなんて呼び方をされそうになった事もあったが、それは流石に辞退した。
「ん~……忘年会か~」
 元々何も無かったら普通に行っていただろうが、今の気分だと何だか余計に寂しくなりそうだ。
 それなら早目に帰って、旦那にご馳走でも用意してあげたい気分だった。
「孝介君と優菜ちゃんの送別会も兼ねてますよ」
「あ、そうなんだ。それは別でやると思ってた」
 孝介君と優菜ちゃんも瀬戸君と同様、このファミレスで働く学生さんである。
 幼馴染で昔から両想いだったらしく、丁度去年のクリスマス辺りから付き合っていたらしい。
 そしてなんと優菜ちゃんの妊娠が発覚した為、バイトを辞めるんだそうだ。
 孝介君は学校も辞めて就職するとの事。
「それにしても初々しいカップルなのにやる事はやってんすね。ビックリしちゃいましたよ俺」
「人は見た目で判断出来ないからね」
 瀬戸君は得意気に胸を張って鼻を鳴らした。
「実は俺があの二人くっつけてやったんですよ。優菜ちゃんから相談受けたりとかして。恋のキューピッドってやつ?」
「へぇ。それも見た目で判断出来ない案件だね」
「え。それって俺が天使っぽくないって事っすか」
「見た目というかキャラ的には歯医者のポスターの虫歯の悪魔っぽい」
 ケラケラと笑う瀬戸君を余所に、あたしは忘年会兼送別会に行って良いかと旦那へとメッセージを送った。
 流石にお世話になった同僚とのお別れだし、前途あるカップルの門出なので祝ってあげたい。
 旦那からはすぐさま了承の返事が来た。
 あたしは瀬戸君に出席の旨を伝えると、それでもやはり胸に空いた空虚な穴を紛らわせる事が出来ずにいた。

 その穴は思わず強くもないお酒を進ませた。
 祝宴ムードで浮かれる皆の空気にも乗せられたのかもしれない。
 その中でも一際優菜ちゃんは輝いて見えた。
「……子供かぁ……」
 そろそろ欲しいというのが本音だ。しかしこればかりは授かりものである。しかし一回り近く年下の優菜ちゃんが妊娠したという事実は、ほんの少し焦燥感を煽られた。それを誤魔化すようにお酒を飲む。
「宮子さんところはまだなんすか?」
 あたしの独り言を聞いていたのか、瀬戸君が枝豆を剥きながら何とはなしに聞いてきた。
「……やる事やってんだけどねぇ」
 明け透けなキャラだと自覚はしているが、こんな風に下ネタを口にするなんて珍しいと自分でも思った。しかも職場の相手だ。どこか投げやりになっている。
 瀬戸君は愉快気に手を叩いて笑うと、自慢するように屈託の無い笑顔を浮かべた。
「俺は狙った女の子は百発百中ですけどね」
「何言ってんの。瀬戸君もまだ学生でしょ」
 酒の席での冗談だと笑い飛ばす。結構女遊びはしているらしいが、あたしにとっては子供だ。
「人は見た目で判断しちゃ駄目ですって。それはそれとしてちょっと飲みすぎじゃないですか?」
「……あ~。そうかも。そろそろ帰ろうかな」
「足元フラフラでしょ。俺送りますよ」
 なんとなくその視線に好奇の色が浮かんでいるような気がしたけど、一回り近くも年下の子から襲われるなんて自意識過剰な気がした。
万が一そうなっても軽くあしらえるに違いない。
確かに一人で帰るには心許なかった。
そんな軽率な考えのもとに瀬戸君とお店を出たのは、やけ酒に近いペースで摂取してしまったアルコールの所為だけだったのだろうか。
記憶が鮮明だったのは瀬戸君と一緒にタクシーに乗り込んだところまで。
その後はどうも全てが曖昧で、何かを尋ねられては適当に返事をしていた。
そんな希薄な意識の中でも、来年と言わず明日のクリスマスは旦那とどこかへ出かけたいと願っていた。今からちゃんとしたお店の予約は無理だろう。その辺のラーメン屋でも良い。そして旦那との赤ちゃんが欲しいと思った。
まだ若い時分から大変だろうが、それでも優菜ちゃんが心底羨ましかった。

いつの間にかあたしは見知らぬ天井を眺めていた。寝心地の良いベッドだった。
セーターは胸元辺りまで捲り上げられててブラジャーが丸見えになっている。下半身に至っては靴下だけを残して後は裸だった。
ベッドの脇に脱ぎ捨てられていたジーンズやショーツに重なって、男モノの衣服も脱ぎ捨てられている。
その持ち主は推理するまでもなかった。
あたしの脚を開いた全裸の瀬戸君が、顔をあたしの陰部に埋めていたから。
「んっ……はぁ……」
 誰かが喘いでいる。忘年会で出たクリスマスケーキよりも甘ったるい声だ。
「やっ、ん」
 それが自分のものだと気づくのに暫く掛かった。
「普段のサバサバしてるくせに、すげえ可愛い声出すんすね」
 瀬戸君は舌で秘唇を舐め上げながら、そしてクリトリスを吸った。
「あぅっ」
 ビクンと背中が跳ね上がる。
「反応も良いし。何より……」
 上半身を起こすと瀬戸君の両手があたしのブラジャーとセーターを脱がしていく。
「案外エロい身体隠してたんすね」
 全裸の彼に全裸にさせられる。当然彼の股間も丸見えだ。ちょっと信じられないくらい大きい男性器が、若い性欲に任せていきり勃っている。
 つい先程まで子ども扱いしていた年下の男の子なのに、その角のようなおちんちんで一気に畏怖の念が胸を締め付ける。
「むっちりした触り心地。完熟間近の大人の爆乳って感じ」
乳房を鷲掴みしながら口端を緩ませる瀬戸君に、あたしはきちんと拒絶の言葉を掛けようとした。
 いつもの調子で、「はい、ここまでね」と冗談っぽく笑って、何事も無くここを出て、お互い忘れようと釘を刺すつもりだった。
 しかし息が切れて言葉が出ない。喉は浅い呼吸を繰り返すだけで必死だった。
アルコールの影響ではない事を頭でなく身体で確信する。
全身を覆う甘い痺れは激しい絶頂によるもの。
それも繰り返し受けたのだろう。
瞼を開けるのも億劫なほどに身体は脱力していたが、何とか視線を自身の下半身に向けると、股間の向こう側に位置するシーツがびっしょりと濡れていた。
瀬戸君が得意そうな笑みを浮かべる。
「宮子さん、すっ……ごい潮噴きしやすいんすね」
耳まで真っ赤になる。そんなものした事がない。そう反論したかった。
「やっぱり旦那さんとご無沙汰だったんじゃないすか? いくらなんでも感じやすすぎでしょ」
 ちゃんと週に数回は夫婦の営みをしている。それもムキになって訂正したかったが、やはり身体は芯からぐったりして口を開く余裕も無い。
「大丈夫。折角のクリスマスイブだし、俺が満足させてやるから」
 ぎゅう、と強く乳首を摘ままれる。
「あぁっ!」
 さっきよりも背中が反り返る。同時に全身を軽い電流が駆け巡った。
 スイッチを入れるようにいとも容易く絶頂させられた。
 異性とすら考えていなかった年下の男の子に。
 そして何より旦那以外の人に。
 それらが悔しかった。
 しかし正常位で挿入しようとしてくる瀬戸君に対して、あたしは脇腹に両手を伸ばす事でしか拒否の姿勢を示せなかった。風が吹けば払いのけられる程の儚い抵抗。
 実際瀬戸君の薄っすら割れた腹筋は、徐々に近づいて来た。
 少したるんできた旦那のお腹と違い、押し返す事は到底出来なそうなシャープな身体つき。
あたしはぐっと息を呑み込むと、何とか一言だけ言葉を発した。
「……ゴムは、してよ」



 せめてケーキくらいは買って帰りたいと思っていたが、どうも残業は本格的に深夜まで掛かりそうだった。
 共同で作業している得意先の冷たい視線を、俺は何とか掻い潜って宮子にメッセージを送る。想定よりも帰宅が遅くなる事。そしてケーキも用意出来そうに無い事。先に寝ててしまって構わない事。そしてプレゼントはちゃんと準備している事。
 そして最後に、愛している事。明日のクリスマスと、来年のイブは何よりもデートを優先する事を誓った。



「なんか携帯鳴りましたよ?」
 あたしの両膝を持ちながら、瀬戸君は爽やか微笑みを浮かべた。
 同時に腰は滑らかに前後している。
 器用だな、と素直に感心するしかない。
「確認しないんすか?」
 出来るわけがない。
 彼の腰が動く度に、頭の奥まで痺れてしまっているのだから。
「あっ、あっ、あっ」
 ベッドの軋みをかき消す程にあられもない声を上げている。
「あぁっ、いっ、いっ、そこっ、すごいっ……」
「ここ?」
「ああっ、んっ♡ それっ、だめっ……マジで、やばいって……」
 瀬戸君はそのあっという間にあたしの弱点を見つけ、そして愛でるように突き上げてくる。
「あっあっあっあっあっ♡ 奥っ、奥っ、だめっ、そんな、ところ……」
 旦那は届かないのに、と口から漏れてしまいそうになった。それだけは何とかして押しとどめる。
 しかし口には出さずとも、明らかに旦那よりも一回り以上大きく、そして硬い。
「こんな場所ずんずんされるの初めて?」
 瀬戸君は両肘をあたしの顔の隣につきながらそう尋ねた。
 あたしは泣きそうな顔でただコクコクと頷くばかりだ。
「旦那さんじゃ無理?」
「……やだ……最悪……」
 それは瀬戸君への悪態ではなかった。そんな比較をしてしまっている自分に対する罪悪感を突き付けられたのだ。
 しかし唇を奪われ、そのまま流麗に舌を吸われると、色んなものを溶かされてしまう。
 瀬戸君のピストンで、そして舌の交接で、クチュクチュといやらしい音が鳴る。それに熱が籠れば籠る程、あたしの中の何かがドロドロに蕩けていってしまうのだ。
「おっぱいが回るように揺れるのすげえエロいよ」
 馬鹿みたいな事を囁かれる。しかしそれすらあたしの身体は嬉しいのか、いつの間にか両手両足は瀬戸君の背中を抱きしめていた。
運動不足を気にする旦那とは違って、ゴツゴツとした引き締まった男の人の身体。
「締まりが良いのは見た目通りっすね」
「……どんな見た目よ」
 あたしのツッコミに瀬戸君は鼻で笑い、ちゅっ、と可愛くキスをした。
「出しちゃうね?」
 まるで恋人のように囁きかけてくる。
 あたしもそんな必要もないのに、「……ん」と甲斐甲斐しく頷いた。
 流れるようなピストンが荒々しさを伴う。
「あっ、あっ、あっ♡」
ただでさえ熱した棒のようだった肉塊は、更に雄々しさを増してあたしを貫く。
「やっ、おっきぃ……♡」
「あの宮子さんでも大きいちんこが好きなんだ?」
 少し小馬鹿にするような言い草だったが、あたしに怒る余裕など微塵もない。
 あたしは返事をしたくなくて瀬戸君の舌を吸った。しかし縋りつくようなそのディープキスは、返事の代わりとしては十分だっただろう。
 瀬戸君の腰つきが激しくなる。
「あっあっあっあっあっ♡ イクっ、イクっ♡ 瀬戸君ので……イっちゃうっ……!!!」
 助けを求めるように彼の背中を激しく抱擁する。
 全身が身震いし、意識が軽く飛ぶ程の快楽。
 繋がった部分で、鉄のような男性器がビクビクと震えているのが、更にあたしの恍惚を誘った。
 絶頂を共有するのは性器だけではない。まるで貪るように互いの唇を舌を吸い合う。
 こんな気持ち良いセックスは初めてだった。今までの旦那とのそれは、何か別の行為だったのではないかと疑わざるをえない程の衝撃。
「人生で何番目に気持ち良かった?」
 お互いの汗を胸同士で押し潰しあい、吐息も直接交換するような密着の中、余韻も収まらないままにそう尋ねてくる。
 あたしは即答した。
「……二番に決まってるでしょ。旦那が居るんだから」
「マジかー。やっぱ愛の力には勝てないっすね」
 瀬戸君は屈託なく無邪気な様子で笑いながら離れた。
 熱くも逞しい彼に埋められていた場所が寂しさを覚える。しかしそれ以上、やってしまった、という後悔が大きかった。
 しかしそれは幸か不幸か長続きしなかった。若い精力がさせてくれなかったのだ。
「じゃあ次はバックで」
 信じられない事に彼の股間は萎えるどころかむしろ荒っぽさを増していた。
「……え? 嘘でしょ」
「いやいや。宮子さんだったら連戦余裕ですから」
 そう気さくに笑う瀬戸君に対して、もはや年下の子供だなんて意識は持てるはずもない。あたしを喰らいつくそうとする強靭な雄として畏敬の念すら抱く。
 休憩なしでセックスなど旦那が若い頃でも経験が無い。
 どこか狐につままれたような気分で、瀬戸君に促されるままに四つん這いとなった。
 息が整わない内に、また彼の熱と硬さがあたしを貫く。
 それは先程と全く変わらない力強さを維持していた。
「はぅっ!」
 旦那とのデートがお流れになった落胆を焼き尽くす程の灼熱。真冬だという事を忘れさせる程に、あたしは彼のペニスでびっしょりと汗ばんでいた。
 そしてぽっかり空いた虚無感を埋める程に大きい。
 すぐさまパンパンパンと、彼の下腹部があたしの臀部を叩く。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡」
その軽快なピストンは、芽生えた旦那への申し訳ないという気持ちを蹴散らそうとしてくる。
「宮子さん、背中超キレーっすね」
 瀬戸君のように軽口を交わす余裕など無かった。
「あぁっ、いっ、いっいっ♡ だめっ、深すぎっ♡ そこっ、そこっ、そんなところ、おちんちん、来ちゃ駄目っ……」
「腰つきも安産型だし、これだったら旦那さんの赤ちゃんばんばん産めますよ」
「やっ、あっあっ、すごっ、いぃ……♡ おっきぃっ、おちんちん、大きいっ♡」
「赤ちゃん欲しい?」
 もうわけがわからなくなっていた。ただこんな強い男根を、何度も何度も突き立ててくる男の問いに対しては、嘘偽りなく応えないといけないという強迫観念が沸いていた。
「……ほ、欲しい……赤ちゃん、産みたい……」
 するとピストンが止まり、結合が解かれた。
ここぞとばかりにぜぇぜぇと息を乱しつつ小休止する。中々整わない息遣いの中、瀬戸君に腰を突き上げたまま、あたしはうわごとのように呟いた。
「……旦那との子どもが、欲しい……」
 シーツを握りしめ、涙を浮かべてそう切望した。
 次の瞬間、再びあたしは串刺しになる。
 旦那よりも大きく、熱く、硬く、強い男性器によって。
「やっ、あぁっ♡」
 あたしはその先端が、あたしの子宮口を押し上げただけで果ててしまった。
 肩や背中が小刻みに震えるが、瀬戸君は知った事かと獣のように腰を振り続ける。
「はっ、はぁっ♡ 待って、だめっ、おまんこっ、壊れるっ♡ イってるっ、イってるからっ! 気持ち良すぎて、おまんこ変になるっ♡」
 パンパンパンパンパンッ!
 抽送の音だけでなく、瀬戸君の鼻息も荒い。
 変化はそれだけではなかった。
「……やっ、熱い……おまんこ、火傷しそう……なんで、おちんちん、さっきより、全然熱い……それに、それに……すごくガチガチしてる……」
 竿に立つ青筋。高くそそり立ったカリ。全てが鮮明に伝わる。
「あ~……イキそう」
 その言葉通り、男根が射精に向けて脈動している。尿道を昇る精液の熱さまで伝わってきそうなほど、膣と肉竿は密接に摩擦しあっていた。
 生で挿入されている。
 そしてそのまま、膣内に射精されようとしている。
 普段ならきっと拒めただろう。
「あっ、あっ、あっ、くるっ、くるっ、おまんこ、またイっちゃうっ♡」
 デートのドタキャン。
「こんな凄いの、初めて……♡」
 若い子の妊娠。
「瀬戸君の、すごい奥まで来る……♡ 大きいおちんちん、全部入って、気持ち良い……♡」
 そして瀬戸君との相性。いや、彼の雄としての優れた資質。
「…………旦那と……全然違う……」
 パンパンに張り詰めた男性器が、破裂しそうな程に膨張する。
 瀬戸君が耳元で囁いた。
「出来ると良いね。赤ちゃん」
 旦那とは比べ物にならない強い性器を根本まで押し込まれると、あたしはその一言で絶頂してしまった。肩甲骨がぎゅっと引き締まり、彼の射精を受け取るように腰が勝手に突き上がった。
 頭の中が爆ぜる。
 びゅるびゅるとお腹の奥を白く染められていくのがわかると、あたしは声にならない声をあげて昇りつめた。
「~~~~~~っ♡♡♡」
 濃厚で、真っ白なゼリーめいたそれを注がれ、あたしは身悶えするような多幸感を伴いながら達し続けたのだ。
「妊娠するの、気持ち良い?」
 瀬戸君の問い掛けに、あたしはただコクコクと頷くだけだった。
 瀬戸君から与えられる硬さと熱以外に、何も存在しない世界を漂う。
 四つん這いのまま、彼の全てを包み込み、ビュッビュと飛び散る子種を甘受し続ける。
 それだけが全てだった。
 だから中出しされている間、携帯が旦那からのメッセージを受け取っていた事も気づけなかった。
 根本までしっかりあたしと繋がったまま、瀬戸君はそれを読み上げた。
「『今ちょっと休憩中。少し雪が降ってきたよ。長い付き合いだけどホワイトクリスマスは初めてじゃないかな。後で一緒にこの光景を見たいね』だって」
 彼は携帯を投げ捨てると、殊更強く下腹部をあたしの臀部に押し付けた。
「きっと宮子さんと俺が繋がってる部分のが真っ白だけどね」
 悪気も無さそうにそう笑うと言葉を続ける。
「次は宮子さん上になってよ」
「……騎乗位あんまりした事ない」
「ちゃんと俺好みのグラインド教えてやるから」
「……ていうか、腰と膝ガクガクなんだけど……」
「じゃあちょっと休憩な。ったく。宮子さんまだまだ若いのにだらしないなぁ」
 そう言いながら、トン、トンと軽く腰を振る。
「あんっ、あんっ♡」
「あぁやべ、まだ出るわ。もうちょい注いであげるね。赤ちゃんの素」
 瀬戸君の両手があたしの腰を掴み、ぎゅうっと下腹部を押し付けると、胎内に再びじんわりと暖かいものが満たされていった。
 二度の射精を行ったとは思えない反り返った勃起で腰を持ち上げられる。夫では有り得ない強度に心臓を締め付けられた。
 まだ精を吐き出し足りないと言わんばかりに脈動する男根に対し、あたしの身体は勝手に義務を果たすように自ら腰を上げた。
際限無くドクドクと精子を注入される温もりに、抗えない幸福を感じながらもあたしの目尻には涙が滲んでいた。
「……ごめんなさい」
この場に居ない最愛の人にそう呟きながらも、一向に硬さを失わないこの男根にまたがり腰を振るのだと考えながらあたしは再び果てた。

終わり。



おまけ。

「もしもし」
「……もしもし?」
 残業からの帰宅途中、どうしても声が聞きたくて宮子に電話をした。
 気のせいか彼女の応答は恐る恐るといった様子だったし、若干息苦しそうに聞こえる。。
「どうかしたの?」
「……今忘年会の途中で五月蠅かったから、走って店の外に出たの」
「ああそうだったんだ。どうせだったら一緒に帰る?」
「あぁ……ううん。大丈夫。送別会でもうちょっとだけ掛かるから。でもすぐ帰るよ」
「そっか。わかった。今日はごめんな」
「良いって。もう」
 冗談であてつけの一つでも言われると思ったが、拍子抜けするくらい優しい。
「明日の夜はさ、ちゃんと外食しようよ。有名なお店は難しいかもだけど」
「そうだね……うん。嬉しい」
「ちゃんとケーキも買ったから。今から帰るね」
「わかった。あたしも多分……そのうち帰る」
 電話を切ると、綿のような雪が降り注ぐ夜空を見上げた。

 宮子さんが電話を切ると、ほっとしたように携帯をベッドに投げ捨てた。
「ね? 案外普通に喋られるものでしょ?」
 騎乗位で繋がったままの彼女は、肩肘から緊張を解くと俺を不服そうに睨んだ。
 しかしその視線に本気の険悪さは灯っていない。
何といってもつい先程同時に絶頂を果たした男と女なのだ。連帯感こそあれど憎悪などあろうはずもない。
何より俺が教えた通りの腰つきで、宮子さんが腰を前後にグラインドして、俺を搾り取りながらの同時絶頂だったのだ。
「すげえエロかったよ」
 その称賛は旦那さんとの電話を取る直前まで俺を愉しませてくれていた腰使いに対してのみではない。
 仰向けに寝ながら両手を彼女の胸に伸ばすと、その大きな乳房を下から持ち上げるように揉みしだいた。
「んっ」
「このおっぱい、派手に揺らしちゃってさ」
 やはり宮子さんは何か言いたげな視線を俺に向けたが、下唇を噛んだまま視線を横に向けた。
「明日も会える?」
「……それは無理」
 それにしてもラッキーだった。職場で一番の上玉、とまでは言わないが、一度くらい抱いてみたいと思える程の女だった。それが妙にガードが緩んでいたのだ。
仕事振りからしてフランクながらも、しっかりした大人の女性といった印象が強い人だった。それがただデートをドタキャンされたくらいでこうはならない。きっと自分でも意識していない沈殿した何かがあったのだろう。
何よりラッキーだったのはこのスケベな身体つきである。これは一度と言わずに、何度かお相手したい。飽きるまで暫くは掛かりそうだ。
元々他のセフレとの予定があったが、急遽キャンセルにしてこの人に狙いを絞って大成功だった。
「一時間とかでも時間作れない?」
「……ていうか、会ってどうするのよ」
 視線を逸らしたままそう言う。そのどこか突き放すような素っ気ない口調は、自分に言い聞かせているようでもあった。
「そりゃあ、俺達の赤ちゃん作らないと」
「…………馬鹿じゃないの」
 あながちそうとも言えないのは、きつ目の膣内を貫いたままの俺の男根から押し出される大量の精液である。既に彼女の子宮は満タンだ。
 久しぶりの人妻に滾る俺の男根は萎える様子を見せない。
 背筋を伸ばしたままの宮子さんを軽く突き上げると、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が鳴った。
「やっ、んっ」
「それとももう出来ちゃってるかも?」
「……そんな簡単に出来ないわよ」
 その声は俺への反抗とは別に、何か悲哀めいた調子を感じた。旦那さんとの苦い積み重ねだろうか。
 俺は彼女の両手を握ると、本格的に継続して彼女を突き上げる。
「ちょっ、待っ……こらっ……」
「さっきは殆ど宮子さんが動いてくれたからね。今度はお返し」
「余計な、お世話………あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡」
 宮子さんの方からも指を絡めて握ってきてくれる。
「あっ、嘘っ、なんでまだ、こんな、硬っ……あっ、いっ、あっあっ、いっ、いいっ♡」
「旦那さんにもうちょっと遅れるって連絡したら?」
「……だったら手……離しなさいよ……」
「宮子さんも握ってんじゃん」
 少しでも握る手を緩めると、すぐさま果ててしまいそうな程に彼女は切迫感に追われていた。
 くつくつ笑いながら他人の女を弄ぶ。ベッドが軽快に軋んだ。
「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ♡」
「明日、少しでも時間作れない?」
「……………少しだけ、だからね」
「やりぃ。じゃあ……」
 身体を揺さぶるようなピストンではなく、肉槍の穂先をぐりぐりと子宮口に押し込む。俺の子種で既に満たされたその場所は、物欲しそうに口を開いて鈴口にキスをした。
「……明日も俺と子作りエッチ、だね?」
 宮子さんは肩をビクビクと小刻みに痙攣しながら、切なそうな表情で小さく頷くのであった。

本当に終わり。


あとがき

作中の時系列も前作から丁度一年経った作品になります。
前回メインキャラの孝介君と優菜ちゃんもちゃんと幸せにしてあげられたので満足です。
出来れば今後もクリスマスの風物詩的なシリーズにしたいものですね。
でもそうするといずれ瀬戸君が30歳とかになっちゃいますね。
来年があるとしたら竿役とか趣向を色々変えてみましょうか。
雰囲気ライトな寝取らせやスワッピングものでも良いかもしれません。
それではメリークリスマス( `―´)ノ

【関連リンク/引用元】
魔法少女と呼ばないで

【投稿作品】
葉桜舞い散る季節に Part1
君となら 前編
道化と後輩 前編
花本さん家の香織さんは言い訳上手 前編
賢者の贈り物
彼女の過去と、そして未来 Part1
ずっと好きだった? 前編
瞳の、奥で