「孝介君はさぁ、クリスマスの予定とかあんの?」
 バイト仲間の瀬戸君が冷蔵庫の在庫をチェックしながら背中越しに訪ねてくる。金色の後ろ髪ががコック帽から垂れていた。いくらキッチン担当とはいえ、金髪にピアスで面接が通るのはここのオーナーが元ヤンだからに違いない。
「別に。友達と過ごすと思うけど」
「マジでぇ? それ寂しくない?」
 何が面白いのかケラケラと笑う。
 俺はけして瀬戸君の事が嫌いなわけではない。如何にもハロウィンなどのイベントにかこつけて、渋谷で騒いでそうな風貌だが(実際今年も騒ぎに行っていたらしい)、少なくとも同僚として仕事はちゃんとするし、特に気に障るような言動をする人間でもない。
 ただ俺とは住む世界が違うな、とは常々思っている。遊んだ事も無い。
「じゃあ優菜ちゃん誘えば?」
「は、はぁっ!? なんで優菜なんだよ!」
 包丁で野菜を刻む俺の手が止まる。
「良いじゃん優菜ちゃん。ちょっと性格きついけど。幼馴染なんだっけ?」
 俺はドギマギしながらも、一呼吸置いて野菜の乱切りを再開すると、言葉を返した。
「……ただの腐れ縁だし」
「でもせめて女の子と過ごしたくない?」 
「そういう瀬戸君はどうなんだよ」
「そうなんだよな~。オレも今年はこれって娘が居ないんだよな~。一か月くらい前に引っ掻けた娘で我慢するかな」
 同い年の若い男二人しか居ないのだから、交わされる会話の内容は大体趣味か女に限定される。しかし俺は童貞なので、殆ど聞き流すと適当に相槌を打つだけだ。
「可愛さはまずまずなんだけど処女でビックリしてさぁ。『え、そのレベルでその年まで処女だったの!?』って感じ。そういう意味では中々レアでさ、教え甲斐があるわぁ」
「あ、そう」
 もはや羨ましいとも下品とも思えない。やはり住む世界が違う。異世界の冒険譚を聞いているかのようだ。 
 クリスマス前で浮かれたファミレスのキッチンに、剣呑な声が冷たく放たれる。
「ちょっと、キッチンの男子二人。ちょっと暇だからってくっちゃべってんじゃないわよ。ほらオーダー」
 ウェイトレスであり、俺の幼馴染である優菜が伝票を突き付けてくる。
「特に孝介。あんたは昔からどん臭いんだから。ちゃっちゃとやりなさいよね」
「……うっせーよ。さっさと職場に戻れ」
 優菜は生まれつき気の強そうな顔つきで「ふん」と鼻を鳴らして踵を返す。その背中に瀬戸君が声を掛けた。
「なぁなぁ優菜ちゃん。俺には何か助言無いの?」
「瀬戸君はお客さんをナンパしないで。以上」
「了解です!」
 敬礼する瀬戸君を無視して、カツカツとフロアに戻っていく優菜の背中は鬼軍曹のような風格さえ漂う。
「もうちょい物腰が柔らかかったら男受けしそうなんだけどなぁ」
 瀬戸君が苦笑いを浮かべる。
 俺もそう思うが、俺にとっては好都合でしかなかった。


 バイトが終わると、家が近くの俺と優菜は肩を並べて歩いて帰る。彼女が夜中のシフトを入れるのは、俺と一緒に帰られる時だけだ。一度「優菜でも一人の夜道は怖いんだな」と茶化した事がある。
「当たり前じゃん。なんか出たら守ってよね」
 優菜は冗談っぽくそう言ったが、俺としては言われるまでも無い事だ。優菜に危機が迫ったらこの身を何の躊躇も無く捧げるだろう。
 優菜は優菜で、普段は俺に対してどんくさいだの頼りないだの言いたい放題だが、実際のところは信頼されているのを感じる。
 誰に対しても物怖じしない優菜だが、俺に対してだけは更に口振りが容赦無くなるのも、距離の無い間柄による甘えなのだと思うと嬉しくすらある。
「そういや孝介はイブとクリスマスのシフトどうするの? 時給アップするけど」
「たかが百円だろ。優菜はどうするんだよ?」
「あたし? あたしはイブは友達と予定あるから、クリスマス本番は働こうかなと」
「折角の百円アップだし?」
「そう。たかが百円。されど百円だしね」
 そこで会話は途切れて二人分の足音だけが、しんと静まり返った夜の住宅街に響き渡る。
 優菜の足取りはいつもと何も変わらない。寒さで口元から漏れる白い吐息も、透き通るような頬が紅潮するのも毎年見る優菜のそれと同じだ。
 しかし今年こそは違う冬にしなければならない。
 ただでさえ俺はつい先月に、あまりに大きなミスをしでかしてしまっている。
 あまりに静かで、俺は心臓の音が聞かれているんじゃないかと気が気じゃなかった。なので開き直って先手を打つ。
「……時給上がるっていっても百円くらいだしさ、それだったら俺とカラオケでも行かないか?」
「へ? 孝介と? まぁ別に良いけど」
 優菜の返事は余りに軽々しかった。それもそうだろう。俺が長年秘めに秘めた気持ちなんて気づきようもない。
「孝介と二人でカラオケとか結構久々じゃんね。前より音痴になってたら店長にチクって時給下げてもらうから」
 優菜がクスクスと笑いながらそんな冗談を言う。
「なんでだよ関係無いだろ」
「あはは。焦ってる焦ってる」
 普段はツンケンしている優菜がたまに見せるその無邪気な笑顔は、何時の頃からか俺を恋に落としていた。
「ていうかイブだからって女の子と二人で過ごしたいとか色気づいちゃって」
 優菜が肩で俺を軽く押してくる。中肉中背の彼女だが、厚底のブーツを履いているので俺とさほど背丈が変わらない。
「……とりあえずいつか訪れる本番の前に練習だよ」
 照れ隠しで思ってもいない悪態をつく。
 優菜はそんな俺の肩を気安く叩きながら笑った。
「ったく。しゃーないな。モテない幼馴染の為に踏み台になってあげる。ていうかそれなら先月の孝介の誕生日もランチ誘ってあげたのに断るなってーの」
「あれはだな……その、先約が」
「はいはい。楽しみにしてたゲームの発売日だったんだもんね」
 先月俺は誕生日だったのだが、優菜の「ご飯でも奢ってあげよっか?」という不意の誘いに、俺は思わずテンパってしまいわけのわからない理由で断ってしまったのだ。あれから数日は後悔で食欲すら碌にわかなかった。
 元々距離が近すぎると、そこから更に関係を詰める気恥ずかしさというのは、普通の恋愛とはまた違う緊張感があるものだ。
「え? そんな風に思ってたの? 気持ち悪っ!」
 という風にドン引きされる可能性だってそう低くはないだろう。
 そうこうしている内に優菜の家の前に到着していた。
 彼女が玄関のドアノブに手を掛け、首だけで振り返って、「ほいじゃおやすみ」「おお。お疲れ」と挨拶を交わすのがいつもの俺達の流れだった。
 しかし今日は俺を茶化すような笑みを浮かべて、「どうせならちゃんと好きな女の子誘えってーの。このヘタレ」とニヤニヤしながら家の中に入って行ったのだった。
 コートを着込んでも細い背中を見つめながら、「だからお前誘ったんじゃねーか」と爆発しそうな心臓を抑えて呟く。
 イブはダメだったが、クリスマスの予定が空いていたのは僥倖だった。もっと早く誘うべきだったが、その話題を出そうとする度に言葉が喉に詰まった。
 ともかく今年こそは決める。絶対告白する。
 俺と優菜が生まれて二十年目の今年の聖夜こそ、『脱、ただの幼馴染』のスローガンを掲げて男を見せたい。
 そんな決意で鼻息を荒くしながら家路についたのであった。
 
 そしてクリスマスイブ。優菜との約束の前日。
 俺はする事もないので、結局時給百円の為にバイトに赴いていた。
 昼間のかき入れ時も終わり、ようやく食器洗いなどの雑務に手を回せるようになっていた。
 瀬戸君がコック帽を取ると、金色の長髪をオールバックにするように掻き上げた。
「すげえ注文の数だったな」
「これじゃ時給二百円アップくらいじゃないと割に合わないな」
「確かに。今からマネージャーに直訴する?」
「いいね」
 イブの昼間のファミレスは戦場さながらだった。それを共に駆け抜けた俺達は互いを讃え合うように笑顔を交わす。
「オレは二時までだからもう上がりだけど孝介君は?」
「一応五時までだけど頼まれたら残業あるかも」
「うひー。頑張るねぇ。明日も?」
「いや、明日は……予定ある」
「マジで? もしかして女の子と?」
 俺が黙って頷くと、並々ならぬ雰囲気を感じたようで、瀬戸君は励ますように肩を叩いてくれた。
「おいお~い。気合入れろよマジで。バシっと決めてこいよな」
 見た目も言動も軽々しい彼だが、それでもその言葉は嬉しかった。
「そういうそっちは? まさかこれから大人しく家に帰るわけじゃないだろ」
「とりあえず今からは『お友達』と約束ある」
 ニヤつきながらそう言う。
「どういうお友達だか」
「イブだからな。早目に行かないとラブホはどこも満室になるし急がねーと」
 案の定なお友達だったようだ。瀬戸君は爽やかな様子で、「それじゃ互いに一発カマしてやろーぜ」と手を振って帰って行った。
 さてファミレスは昼食時を過ぎてもまだまだ油断はならない。イブとくれば尚更だ。しかし今は小休止出来る時間。俺は何となく携帯を取って優菜にメッセージを送ってみた。
『今ピーク過ぎた。地獄だった』
 返信はすぐに来た。
『お疲れ~。こっちは今友達と待ち合わせ中。寒い~』
 何てことはない日常会話。どうせ明日告白するのだから、今から少しキザな事も言っておく。
『明日の待ち合わせは絶対俺のが先に着くから安心しろよ』
『つうか家近所なんだから一緒に行けば良いじゃん』
 それもそうだ。そんな当たり前の事に気づけない程浮足立っている自分を恥ずかしがっていると、優菜の方から追加でメッセージが来た。
『でもまぁ折角だし外で待ち合わせしよっか。そっちのがデートっぽいでしょ?(笑)』
 優菜とデート。その言葉だけでも心臓が跳ね上がる。
『別に良いけど。それじゃ駅前に十時な?』
 対面していたら、顔を真っ赤にしている俺をどう思っただろうか。ただからかってくるだけだろうか。それとも自分の想いに少しは気付いてくれるだろうか。いや、伝えないといけないのだ。俺は益々ボルテージを上げていく。
『はーい。それじゃ待ち合わせ場所に颯爽と現れる孝介期待してるわ。あ、友達来た。それじゃまた明日ね』
 暫く優菜のメッセージを眺めていた。彼女が打った字面を目に入れるだけで緊張してくる。明日が待ち遠しいような、永遠に来てほしくないような。いやいや弱気になるな。
 気勢を吐くように腕を捲ると、新しく入ったオーダーを片付ける為に一先ず仕事に集中する。



「優菜ちゃん明日はどうすんの?」
 瀬戸の質問に優菜は即答出来ない。
 仰向けに寝た瀬戸の上に馬乗りになった優菜は、はぁはぁと息を切らして言葉を発する余裕が出来るのを待っていた。
 二人の衣服や下着はベッド脇のソファに重なるように脱ぎ捨てられ、ベッドの上の二人は一矢纏わぬ姿となっている。
「おーい。聞いてる?」
 中々返事が無い優菜を催促するように、彼女の上半身を腰で持ち上げるように揺らした。
「んっ」
 その動きを受けて瞼と口元をぎゅっと閉じた優菜の表情は、電流を流されたかのように険しいが、同時に熱を帯びたマシュマロのように柔らかくもあった。
 事実彼女の全身は瀬戸と同様に汗ばんでいる。
 騎乗位で連結している優菜の胎内を、その遊び人の風貌に似つかわしい放蕩な男根で続けて突き上げる。
「あっ、あっ、あっ」
 優菜は堪らないといった様子で甲高い声を上げながら、背中を反らすように上半身を直立させていく。
「あしっ、たは……」
 真上に貫いた男根がそのまま脳天まで届いてきそうな快楽の中、優菜は返事を口にしようとする。
 しかし瀬戸はそれを邪魔しようと、彼女の細い両手首を持って、ベッドが軋む程に、そして連続で突き上げる。
「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ」
 優菜の美しいお椀型の乳房が、その張りツヤを証明するように弾む。
 ピストンが中断すると、優菜は恨めしそうな視線でニヤニヤしている瀬戸を睨んだ。そして浅い息遣いの中言い切る。
「……明日は元々はシフト入ってたけど、友達と予定出来た」
「あ~マジか。優菜ちゃん暇だったら明日も誘おうとしてたのに」
 仕返しとばかりに優菜が意地の悪い笑みで瀬戸を見下ろす。その際に二人の両手は指を絡めて握り合った。
「ふふん。さては本命の娘に振られたんだ?」
「ちげーし。優菜ちゃんのが優先度高い感じになってきただけだし」
「はいはい。誰にでもそう言ってんの丸わかりだから」
 そう笑いながら、優菜は腰を前後にグラインドした。つい先程瀬戸に教えて込まれた腰の振り方だ。
「あぁ、優菜ちゃん。その腰の動きマジ気持ち良い……てかフェラとかも飲み込み超早かったよね。一月前まで処女だったとは思えねーわ」
「遊び慣れてる誰かさんが教え方が良かったんじゃない?」
「オレって指導の才能あるのかな。家庭教師のバイトもしようかな」
「皮肉だっての」
 優菜が腰を振る度に結合部からクチュクチュと鳴る淫らな音が、優菜の表情から笑みを消していく。代わりにその頬に浮かぶのは恍惚の色。
 そんな彼女の両手をしっかり恋人のように握り、瀬戸の方からも息を合わせて腰を動かす。
「でも一か月前初めて優菜ちゃんとした時マジでビビったわ。優菜ちゃんレベルが二十歳まで処女とかプチミラクルだって」
 優菜は気を抜けば蕩けてしまいそうな程の心地良さの中で、自虐的な笑みを浮かべる。
「ずっと片思いしてたからね。馬鹿みたいでしょ?」
「いやぁ、一途な恋愛。良いんじゃないっすか?」
 そこで会話が途切れると、それまで優菜に主導権を握らせていた瀬戸の方から攻勢に出る。
「あっ、あっ、あっ、いっ♡」
 それまでの吐息とは糖度が段違いの甘い嬌声を上げる。
「瀬戸っ、君っ、だめっ♡ この体勢っ、奥まで来るっ♡」
「優菜ちゃんが騎乗位でしてみたいって言ったんじゃん?」
「……だって、いつも瀬戸君に主導権握られて、ムカつくからっ……あっあっ、いっあっ♡ やっあっ、深いっ♡」
 徐々に身体をくったりと脱力させていく優菜に対して、瀬戸はズンズンと突き上げながらも息を切らした様子も無く言葉を続ける。
「オレの大きい方だから、あんま奥まで挿入れちゃうと痛いって事もいるけど優菜ちゃんは大丈夫?」
「大、丈夫っ、あっあっ♡ ていうかっ、奥っ、好きかもっ♡」
「うん知ってる。この一か月結構エッチしまくってたもんな」
「……だったらわざわざ聞くなっつうの」
 優菜は呆れと苛立ちで顔を横に向けた。
「優菜ちゃんのその表情が好きだからさ。負けん気が強いっていうか媚びないっていうか」
「……そういうのマジでウザいんだけど」
「それそれ。イク寸前なのに全く可愛げない感じ。逆に新鮮」
 瀬戸が感心するように呟くと、ベッドがより激しく軋み出す。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡」
 まだセックスの味は覚えたばかり。男根に導かれる絶頂の激しい快楽は未だに不安が付きまとう。優菜の方からぎゅっと両手を握ってくると、それを握り返して瀬戸の口端が愉悦に歪む。
(顔とスタイルはまずまず優良。美巨乳だったのと、喘ぎ声も普段とギャップあって可愛いのがサプライズボーナスだな。二十歳まで手付かずだったのはかなりラッキー)
 男を知らなかった優菜の身体は瀬戸を印象を底上げさせた。乳首も膣口も綺麗なピンク色で、陰唇に至ってては無垢そのものな綺麗な割れ目を有していた。
 最初は単なるつまみ食いのつもりだったが、優菜の遠慮の無い性格は一緒に居て楽しくもあり、瀬戸にとってはただのセフレ以上のお気に入りになっていた。
「イク?」
 瀬戸が尋ねると、優菜はコクコクと頷き、更にぎゅっと手を握る。そして普段の勝気な様子からは想像も出来ないいじらしい声色と表情を浮かべる。
「……瀬戸君、あたし、まだおちんちんでイクの怖いんだけど……」
 瀬戸は腰を中断して、「じゃあ自分で腰振ってイク? 丁度騎乗位だし」と尋ねた。
 優菜ははぁはぁと息を荒げながら逡巡すると、恥ずかしそうに首を左右に振った。
「……瀬戸君に、してほしい」
 瀬戸はその言葉には応えず、絡めた両手の指をじゃれつくように動かした。二人の手の平はすっかり汗ばんでいる。
 優菜の肉壺はもう堪らないといった様子で、瀬戸の肉槍をぎゅうぎゅうに締め付けていた。
 優菜は不服を露わにするように視線を横に向けると、下唇をぎゅっと強く噛んでから、耳まで真っ赤にして言った。
「……瀬戸君に腰振られてイキたいっつってんのっ」
 その様子を愛でるのに満足したようで、瀬戸は彼女を遠慮なく突き立てる。
「あいっ、いっいっ♡ 奥っ、奥っ、刺さるっ♡」
 途端に優菜の声が際立って甲高くなり、喉が沿って顎が上がる。
「あっあっ、はぁっ、すごっ♡ やっ、あ、昇ってきた……イクっ、イクっ♡ 瀬戸君、イっちゃうっ♡ イクイクイクっ♡ イックゥッッッ♡♡♡」
 彼女の全身がブルブルと小刻みに痙攣すると、瀬戸はコンドーム越しにも彼女の膣壁がウネウネと男根に纏わりついてくるのを如実に感じた。
「……もうだめ」
 優菜はぐったり脱力しながら瀬戸の胸板に倒れ込む。そんな彼女の背中や後頭部を瀬戸が優しく撫でる。
「……そういうの手慣れてるよね。優しくする時のメリハリとか。本当遊んでる男って感じ」
 冗談っぽく侮蔑の視線と言葉を向けるが、瀬戸は気にする様子も無く笑う。
「ちゃんと初めての時も痛くせずにしてやったろ?」
 瀬戸が顔を寄せると、優菜も目を瞑って唇を突き出した。ちゅ、ちゅ、と啄みあうと、どちらからともなく舌を絡め合う。
 暫くクチュクチュと音を鳴らして舌で交接を続ける。優菜の舌遣いはまだぎこちなさが残るが、それでも瀬戸にリードされながらしっかり巻き付き、時には吸い、教えられた通りにしっかり男を悦ばせていた。
 瀬戸の両手が優菜の臀部に向かうと、ふんわりとした尻肉をぎゅっと掴み、そして再び突き上げようとする。その予兆を感じ取ったのか、優菜が瀬戸の唇を甘噛みしながら囁く。
「……待って。やっぱり正常位が良い」
「オッケー」
 結合したまま瀬戸が上半身を起こし、一時的に対面座位となると、そのまま優菜の後頭部に枕を挟みながらゆっくり仰向けに寝かせる。優菜は呆れるように笑う。
「本当一々スムーズだよね。絵に描いたような遊び人って感じ」
「もたもたされると萎えるだろ?」
 正常位の体勢になると、瀬戸は両肘を優菜の両肩の上辺りに置いて、鼻先を触れ合わせる。
 優菜は自嘲するような笑みを浮かべる。諦めたつもりの恋はまだ心の隅々に煤を残していた。ずっと好きだったのだ。それでも自分から踏み出す勇気も無く、待っていても女として見られていないのは明白だった。
 何せ予定の無い誕生日にランチを誘っても、ゲームの発売日にすら負ける優先度なのだ。
 だから傷心中に何となく誘われた瀬戸に、何となく処女を許したのは、ただの自暴自棄ではなく一区切りのつもりだった。どうせ叶わぬ恋に純潔を保持していても仕方ない。いい加減前に進めるきっかけが欲しかった。でも好きな人への気持ちは燻ったままで、それを払拭する為に瀬戸の誘いに乗る事を繰り返した。
 そこに逃避の心理が無かったといえば嘘になるが、別に依存している程ではなかった。瀬戸については何とも思っていない。恋慕も嫌悪も無い。ただ手慣れた彼に女としての悦びを仕込まれれている間は、好きな人に女として見られていない惨めな自分から目を逸らす事が出来た。
 明日カラオケに誘われたのは飛び上がる程に嬉しかった。しかし期待している事は起こらないと確信していた。期待するだけ落胆は大きくなる。彼にとって自分はただの誘いやすい幼馴染でしかないのだ。ただクリスマスに男一人じゃ寂しいから、仕方なくの選択肢でしかない。
「別に好きな人なら気にならないと思うけど。むしろ可愛いって思うかも」
「本当? オレがもたもたしてたら可愛いって思う?」
 優菜がくすりと笑う。
「それはさっさとしろよって思う。バイトでもちんたらしやがってって感じ」
 吐息が直接掛かり合う距離で軽口を叩き合うと、ちゅっと唇を押し付け合った。
「オレ結構テキパキ動いてるつもりなんだけど」
「全然じゃん。その辺は孝介見習ってほしいんだけど」
 思わず出したその名前に、優菜は胸を痛めた。
「優菜ちゃん孝介君に結構厳しいのに、裏では褒めるよな。ツンデレってやつ?」
 そう言われるとそうかもしれない。もっと普段から素直に孝介を褒めていれば、もっと男女を意識出来る関係性になれたかもしれない。
 そんな後悔が胸を締め付けるが、それが痛みになる前に瀬戸の身体が前後に動いてくれた。優菜の膣壺は反り返った肉棒の更に返しになっているカリでグリグリと擦られる。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ♡」
 再びベッドが軋む。同時に優菜の両手が瀬戸の背中に回る。
「……前から思ってたけど、瀬戸君の背中、大きいよね」
 初めて知った男の身体はどこも硬くて大きくて、頼り甲斐があった。ずっと好きだった孝介もそうなのかと思うと優菜は悲しくなる。それでもガチガチに硬い肉棒にズンズンと突き上げられる度に、自分のものとは思えない声が漏れた。
「あぁっ、いいっ♡ あっあっ、それっ、あっあっ、そこっ、擦れるっ♡」
 いつも一緒に帰って、肩をぶつけ合うくらいのスキンシップなら当たり前のように出来るのに、こうやって裸の背中に指を突き立てる事は出来ない。
「やっあっ♡ 瀬戸君っ、おっきっ♡」
「背中が?」
 瀬戸がからかうように問うと、優菜は拗ねた子供のような顔で彼を睨む。そして自ら首を浮かしてキスをする。ちゅう、と愛らしい音が鳴った。
「……おちんちんが。言わすなバカ」
「ちゃんと言って?」
 瀬戸が過剰なくらい優しくそう言いながら、ギッシギッシとベッドを揺らすようにピストンする。
「はぁっ、あっ……んっんっ♡ これっ、きもちっ♡」
 蕩け切った声を上げると、色んな想いを忘れるようにぐっと呑み込んだ。そして切なそうに瀬戸を見上げ、「……瀬戸君のおちんちん、大きくて気持ち良い……」と消え入りそうな声で囁いた。
 男を知り始めたばかりの女の新鮮且つ可憐な恥じらいは、経験豊富な瀬戸をも興に乗らせた。
 ベッドの軋み音の激しさが、彼の理性を上回る。
「あっ、あっ、あっ♡ 激しっ♡ 瀬戸君っ、おちんちん、強いっ♡」
 優菜は男とニュルニュル摩擦しあっているのを感じる。自分の愛液は真っ白に泡立って、肛門を通って昼間のラブホのシーツを濡らしている事を自覚する。
「……やっぱり正常位が一番好きかも」
 慣れてないセックス中に若干口数が多くなるのは照れ隠しなのも彼女は自覚している。
「バックの時のがエロい声出してるけどね」
「……瀬戸君が馬鹿みたいに腰振るからでしょ」
「失礼な。オレくらい知的な腰の振り方する若者はそうそう居ないぜ?」
「その台詞がもう馬鹿丸出しじゃん」
 肌を何度か合わせると、十数年の腐れ縁と比肩する程に心の距離が近づく。
 気心の知れた言葉の応酬で思わず笑ってしまうと心身がリラックスする。同時に自身を貫く、熱く硬い瀬戸そのものに親しみを感じた。それが丁度良い塩梅で優しく動く。
「んっ、んっ」
「な? 後でまた後ろからしていい?」
「え~……どうしよっかな~……」
 優菜が少し大げさに訝しむ。
 そんな二人が交わる度ににゅるにゅると鳴る淫靡な摩擦音が、そろそろ陽が傾き始めたクラスマスイブのラブホを満たす。
「あぁ……んっ……はっ、あぁ……はぁ……はぁ……瀬戸君…………おっきぃ♡」
 瀬戸の抽送は徐々に間隔を狭めていく。
「あっあっ、はぁっ、あん♡ あっいっ、いっいっ♡ そこっ、そこっ、好きっ♡ やっあっ、すごっ♡」
 優菜の声が甘ったるい切なさを帯びると、彼女の細い両脚が瀬戸の腰を交差して抱擁した。頃合いだと瀬戸は優しく声を掛ける。
「このまま正常位で気持ち良くなって、それから後ろからもしようぜ?」
 優菜はトロトロの嬌声の合間に、やはりトロンとした瞳で瀬戸を見上げる。
「……ゆっくりだからね?」
「絶対。約束する」
「あと休憩も挟む事」
「休憩ね。はいはい。バイトでも一番得意な項目だわ」
「働け」
「まだまだ時間はたっぷりあるしな。なんならお泊りコースに変更してく?」
「明日友達との待ち合わせ十時だから」
「それまでにチェックアウトすれば良いじゃん。」
 逡巡する優菜に瀬戸が言葉を続ける。
「イブからクリスマスに掛けて、一晩中気持ち良くしてあげるからさ」
 その言葉が誇張で無い事を優菜は身を以って知っている。今も尚自身を貫く肉槍は射精しても衰える事が無さそうな程に精強だ。中でギチギチと筋肉が軋んでいるのが分かる。実際一回会うと、二~三回は抱かれる。
「オレ、一晩で五回までならやった事あるから」
 優菜はジト目で睨みながら唇を尖らす。
「……その情熱を厨房でも見せて欲しいもんだわ」
 『でも』という言葉は、言外に今晩ベッドの上でも見せてほしいと伝えていた。
 それが伝わった瀬戸は優菜が尖らせた唇にちゅうっ、と唇を押し付ける。そのまま互いの歯茎まで舐め合うキスをする。優菜は初めて口腔内を舐められた時は罪悪感すら抱いた。今でも瀬戸に上顎の裏を舐められると、それだけで頭がぼんやりとする。
「ついでにさ、ちょっとだけゴム外して良い? 絶対外に出すから。ね?」
 そんな思考回路を鈍らせるようなキスをしながら、セックスに飽きるほど慣れ切ったというお墨付きがついた男に、さほどがっついた様子でもなくそう懇願されると、彼女も普段の様子で断固拒否は出来なかった。
 瀬戸が腰を引いて結合を解き、反り返った男根から半透明のゴムを外すのを見ながら、玉砕覚悟で一度くらい孝介に告れば良かったな、などと彼女は考えていた。
 そして生の亀頭が陰唇を押し広げていく時、その熱さに驚愕しながらも、でもやっぱり振られた後に今まで通りの関係でいられなくなるのは絶対嫌だな、と何度も繰り返した堂々巡りが脳裏をよぎる。
 コンドームを外した生の肉槍は、青筋を立てた質感による視覚的効果だけで優菜を雌にした。それが全て蜜壺に埋没すると、その逞しさに彼女は何も考えられずただ果てた。明確なカリの形。火傷しそうな脈動。その力強さが彼女を一瞬で頂まで昇りつめさせる。
 今までにない白い大波に攫われていく中、「孝介、ずっと好きだったよ」と淡い恋心を砂浜に埋めた。

 バイトを終えると陽は傾き始めていた。冬の夕暮れはどこか物悲しいが今日だけは違う。イブはこれから本番だとばかりに、街中は特にカップルで賑わいを見せ始めていた。お馴染みの曲がそこかしらから聞こえる。
 きっと彼らの多くが今晩愛を育むか、それとも愛を告げるかをするのだろう。
 去年までの俺ならそんな光景を見て、歯噛みしながら情けない自分を呪っていただろうが今年は違う。本番は明日だと気合を入れなおすと同時に、浮かれるカップルたちを素直に祝福した。
 優菜が好きなグループやバンドの曲は予習済みだ。馬鹿みたいな努力だが、悔いの無い告白をしたい。
 いつもなら優菜が一緒のバイトの帰り道は、一人だと余計に寒々しく感じる。どれだけ彼女の存在が、自分にとって温もりなのかを改めて知る。
 陽が沈むと電灯が付き始めた。携帯がメッセージの着信を通知する。
 瀬戸君だった。
『ホワイトクリスマス』
 その一文と共に画像が貼り付けられている。
 全裸の女性が仰向けに寝ており、下腹部から口元までが映されていた。同時に直前まで挿入していたであろう生の男根が女性の陰毛の上に置かれていた。男として敗北感を覚える巨根の先端からは、女性の腹部から首元に掛けてまで、コップに注いだ牛乳を零したかのように精液で白く染めていた。
 その肢体はけして肉付きの良い方ではなかったが、乳房は仰向けでも美しく盛り上がっており、その豊かなボリュームと瑞々しい弾力を手に取るように画像から伝えた。乳首は薄桃色でとても清廉かつ可憐で、それを覆うようにべっとり付着したゼリー状の精液が、余計に乳輪の色を薄く思せた。
 細い首にシャープな顎、そして薄い唇は想いを焦がしている幼馴染を一瞬連想させたが、だらしなく半開きになった口元から垂れる涎が、負けん気の強い彼女の印象からかけ離した。
『今お掃除フェラ中。『初めての生エッチ気持ち良かった?』って聞いたら、裏筋舐めながら恥ずかしそうに頷いてる。咥えてからの吸い付きは勿論、玉もアナルも教えた通りに丁寧に舐めるからすぐ復活する(笑)』
 やはり住む世界が違う。こっちは十年近い恋愛の総決算を明日に控えている身だ。こんな下世話な話に乗っかっている余裕は無い。既読スルーで携帯を仕舞おうとすると、追加の一文が届く。
『やけに丁寧だから、「一晩中生チンポで可愛がってください」って言えばすぐ二回戦してやるって言ったらギンギンに勃起した根本軽く噛まれた(笑) でもその後金玉めっちゃキスしながら、恥ずかしそうに言ってくれた(笑) 可愛い(笑)」
 俺はため息をつきながら空を見上げた。星がよく見える。明日の雪は期待出来ないだろう。


おわり?

あとがき

作者の懺悔と言います。
NTRブログが引っ越ししてからは初めての短編投稿です。
最近では投稿するにしても自分のブログかノクターンノベルの方だったんですが、
旧NTRブログで初めて小説を書き始めて、それから同人、そして今年は商業でもデビュー出来ましたので、
色々な意味で良い節目だと思い、管理人さんに投稿を持ち掛けてみました。

ちなみに本作ですが、勿論この後優菜ちゃんと瀬戸君は宿泊に切り替えます。
その合間の休憩で優菜ちゃんは孝介君の好きな曲をカラオケで練習して、
「そのまま歌ってて良いから」と瀬戸君に後ろから挿入されて、最初は意地でも歌っていたけどマイクはやがて嬌声しか拾わなくなり、
生+バックで激しく喘がされる優菜ちゃんは、「……明日友達とカラオケなんだから、声ガラガラにしないでよね」ときっちり睨みを利かせますが、
腰がガクガクになるまでヒィヒィよがらされてしまうのではないでしょうか。
その後も何度も「十時待ち合わせだからっ!」と念を押す彼女を深夜まで抱きまくり、
寝起きにも「まだ時間大丈夫だって」と流されて、一発してしまうのは当然の成り行きだと思います。
瀬戸君もその全てを外出しで満足出来たかは定かではありません。
来年のクリスマスにでも、その辺書けたら良いですね。

来年も商業で何冊か出せる予定ですし、同人エロゲも製作中だったりするので、
今後も浮気系の作品を世に出し続け、このブログに紹介してもらえていけるよう頑張ります。

それではメリークリスマス。そして良いお年を。

【関連リンク/引用元】
魔法少女と呼ばないで

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花本さん家の香織さんは言い訳上手 前編
賢者の贈り物
彼女の過去と、そして未来 Part1
ずっと好きだった? 前編
瞳の、奥で

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